『CRASS:ゼア・イズ・ノー・オーソリティ・バット・ユアセルフ』
クラスの映画を見てきました。
私は中学生の頃から、ジェリールービンや、アビーホフマンのイッピー思想に被れ、緑色革命をバイブルと仰ぐ、ロック小僧でした。
ロックミュージックが、反体制なのでは無く、全ての反体制の物がロックなのだと信じて居た私にとって、商業主義のもと、精神性を失い、只々肥大化して行くロックミュージックは、既にロックと呼ぶに値しない物と成っていった。
しかし、根っからのロック小僧である僕がロックを見限るには、まだまだ口惜しく、しかしながら目の前に流れる、毒の消えた商業音楽然とした、ロックミュージックを肯定する度量ももたず。
高校生にして、僕はロックミュージックに絶望を感じてしまっていた。
そして全てが退屈になった。
そんな僕の前に、カウンターカルチャーとしての機能を失ったロックミュージックに対して、正に反旗を振りかざす様に現れたのが、パンクロックであった。
それは、音楽的には、技術的にも、作品的にも何一つ魅力のない、単純なロックンロールであったが、其れでも反体制と言う旗頭を背負って居るだけで、僕にとっては十分だった。
僕は直ぐにこのパンクロックの流れに飛び込み、パンクスと成った。
そしてその日から、僕の前から、退屈と言う言葉が消えた。
僕は、東京ロッカーズと言うジャパニーズパンクロックムーブメントの周辺に生き、バンドを作り一緒にロックもした。
それは、十代の僕には楽しかったし、パンクロックと言う新しいロックスタイルを気取るのもカッコよかった。
そして、なにかに反抗して居る様な反体制気分も爽快だった。
でも何か満たされず、僕は1979年の夏の終わりに、マンネリして来た東京を去り、ロンドンに向った。
実は僕は、東京を去る三ヶ月前まで、ニューヨークに行くつもりでした。
元々僕がパンクロックに傾倒したきっかけは、ベルベットアンダーグラウンドの存在であり、僕は完璧にニューヨークパンク支持派で在ったのが、何故か急に行き先をロンドンに変えたと言う経緯があって……。
未だに、何故あの時行き先を変えたのかハッキリした答えを持たない。
虫の知らせだったのかもしれない。
兎に角結果として、その時訪れたロンドンは、新しい物が産まれる息吹で、充ち満ちていた。
まさに、スインギングロンドンそのものだった。
因みに、同時期ニューヨークは何も新しい物を生み出す事も無く、衰退して行きました。
結果、ロンドンを選んで正解だったと言う事でした。
そんな初めて訪れたロンドンの北部の街で、僕はある落書きに目を惹かれた。
落書きは、型抜きにスプレーで丁寧に描かれた物で、クラスと書かれ、『君も革命のスタッフに成れる』なんて書いてありましたね。
非常にクォリティの高い落書きで、
在る意味落書き印刷と呼べるものでした(笑)。
他に、クロスの様な円形のマークとアナーキーマークが描かれてましたね!!
この落書きの意味を、全く知りませんでしたが、ふと気付くと、パンクスの背中にも落書きと同じマーク、同じ言葉を見つけました。
それがパンクバンドのプロパガンダであるということは、直感的に分かりました。
そして、まだ見た事も、聞いた事も無いクラスなるバンドに、凄く心を動かされました。
しかし、ロンドンパンクに疎い僕は、クラスについて何も知らなかったので、彼らの事をすぐさま調べ、ロンドン北部の小さなライブハウスにクラスと言うバンドを見に行きました。
いやあやはり異質でした。
そこで見たのは、普通のパンクバンドのコンサートとは、全く空気が違ってました。
ロンドンに渡り、毎日の様にパンクバンドのギグに顔を出して居た僕にとってもその光景はかなり異様なものでした。
先ず目を引いたのは、ステージに貼られた日本語で書かれた反戦という文字。
そして街の壁に暗号のように、書かれて居たあの円形のクロスの様にも見える複雑なシンボルマーク。
他にも色々と旗が下げられ、その様子は、正に政治集会、若しくはカルト教団のミサの様にさえ思えました。
そして出てきたメンバーたちの年齢層の高さにも驚きました。
はっきり言って、みんなおじさん達でした。
まだ僕も二十歳だったので、かなりの異様さを感じました。
しかし彼らは、全員黒いボンデージ系のパンクルックで身を包み、その様は、かなり戦闘的でさえあり、かなりクールなものでした。
観客の年齢層は幅広く、若いパンクスから、どう見ても中年の男女の姿も多く、このバンドが全く他のバンドとは違うフィールドの元に成り立って居る事を感じました。
そのクラスのステージの脇には、スタッフとおぼしきヒッピー風な姿も見らる、その中には日本人の中年女性の姿も在りました。
僕はすぐさまこのバンドが、何らかの活動家のバンド又は、ヒッピー崩れのコミューン生活者のバンドである事を直感しました。
あの当時、ヒッピーはパンクの敵としても見なされていましたが、元来イッピー上がりの僕には、何か僕が参加すべき物が目の前に在る、そんな感じさえ受け、引き込まれる様に彼らのステージに釘付けに成りました。
生憎彼らの歌詞が理解出来る程の英語力を持ち合わせて居なかった僕ですが、歌ってることが、強烈なメッセージである事、そしてアナキスト的反体制主義のアジテーションで在る事も理解出来ました。
そしてその音は、ストレートで単純なロックの様で在ったのですが、ギターはかなりノイズに近く、その音自体も既存のロンドンのパンクバンドの音とは違って居ました。
ステージでは、暴れるわけでもなく暴力的になるわけでもなく、しかしその言葉は力強く、これが今のリアルなパンクなんだと僕は実感しました。
そして僕は、このクラスと言うバンドを何度か追いかける事となりました。
ステージ脇の日本人らしき女性に声をかければ、彼らと何か行動する事も可能だったかもしれません。
しかし、そこ迄深入りする前に僕は、バウハウスと出会い、彼らのパフォーマンスに魅了され、アート系の表現主義的音楽にはまり、いつしかクラスのライブに足を運ぶのを辞めていました。
しかし、強烈な反体制志向は、僕の中で息づき、日本に帰って結成したAUTO-MODには、思想的部分で、大きな指標と成り、初期のAUTO-MODは、反帝、反社会を唱える、かなり政治的バンドとしてスタートしました。
まあ、後にAUTO-MODが宗教的反社会志向に陥り、精神的独立国家イースタニア、そして反物資世界デストピアを目指したのも、バウハウスの表現方法にクラスの政治性と共同体志向を持つ事から始まったバンドの性だったのかもしれません。
あの頃は、マジ僕もやばかったデス。
そんな、僕にとって原点と成り得るバンドの映画が今公開されているんです。
もし、バウハウスに会わなかったら、彼らクラスの運動に参加して居たかもしれない。
そう成っていたら、僕の人生は、まるっきり違う物に成っていたはず。
しかしながら、実際日本に帰ってから、クラスがその後どの様な歴史を辿ったのかは知らなかった自分にとっては、この映画は、正に衝撃でした。
あれから35年、あのクラスの動向を記したドキュメント映画が公開されました。
『CRASS:ゼア・イズ・ノー・オーソリティ・バット・ユアセルフ』
まさか、今に成って、こんな物を見られるなんて、凄い事ですよ。
そして、僕は彼らの本当の姿を知る事ができました。
どうか、30年前にパンクムーブメントに関わった方、是非ともこの映画を見て下さい。
そして、もう一度、あのパンクムーブメントと言う物を再検証してみて下さい。
パンクムーブメントを全く知らない、今の音楽愛好家の方達にも、こう言うロックも在る、と言う事を知って貰う為にも、是非とも見て貰いたい映画です。
6月13日迄の公開です。
この貴重な体験を是非逃さないで下さい。
『CRASS:ゼア・イズ・ノー・オーソリティ・バット・ユアセルフ』
5月3日(土)〜新宿K's cinema 爆弾投下!レイトショー(連日21:10)
http://www.curiouscope.jp/CRASS/
監督アレクサンダー・エイ
出演CRASS/ペニー・リンボー/スティーヴ・イグノラント/ジー・ヴァウチャー/イヴ・リヴァティン
作品データ2006/オランダ/64分/カラー・モノクロ/4:3/HD
解放運動が盛んだった70年代後半から80年代に一世を風靡した
イングランドのアナーコ(無政府主義)・パンク・バンド、CRASS(クラス)。
同時期に活動したSEX PISTOLSやCLASHなど、商業主義に絡め取られた初期パンク・バンドを反面教?師とし、"アナーキー&ピース"の理念に基づき「誰にも支配されず独立した一人一人の?行動が平和につながる」という平和主義を基本に活動。反戦、反核、反キリスト教、反物?質主義、反動物虐待、反性差別、反環境破壊などについての強力なメッセージを発信した?。
メンバーは"ダイヤルハウス"と呼ばれる家で集団生活を送り、
レコーディングやレーベル運営などすべて自分たち自身で行なうという、パンクの基本精?神であるDIYアティテュードを完遂。
彼らのレーベル「CRASS RECORDS」は、ビョークがヴォーカルだったK.U.K.L.ほか、CAPTAI?N SENSIBLE(ex. THE DAMNED)、
THE MOB、ZOUNDS、CONFLICTなど100組近いバンドを輩出。
主要メンバーは現在も"ダイヤルハウス"で自給自足の生活を送っている。
当時の貴重な映像、彼らの楽曲を織り交ぜつつ、
現在もダイヤルハウスで暮らす彼らの様子を映し出したこのドキュメンタリーは、
観る者に今日の経済成長のパラダイム、消費中心主義世界への疑問を抱かせる。
彼らは言う。疑問を持ったら主張すべきだ。
何故なら、自分を支配できるのは自分だけなのだから、と。
●『CRASS:ゼア・イズ・ノー・オーソリティ・バット・ユアセルフ』
5月3日(土)〜6月13日(金)
新宿K's cinema 爆弾投下!レイトショー(連日21:10)
http://www.curiouscope.jp/CRASS/